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ロマンス小説の感想

愛を知った侯爵 シェリー・トマス

愛を知った侯爵 (ベルベット文庫) The Luckiest Lady In London: London Book 1 (English Edition)

 

計算高い2人の駆け引きに満ちたロマンス。  この作者ならではの捻りのきいたロマンスで、とても面白かったです。主役の2人とも腹に一物ある、かなりヒネクレたタイプなのですが、普通なら姑息とも言えるような行動をとっても不思議と嫌味に感じることはなく、少し屈折した2人の複雑な心理をとても巧く描いていて、むしろ共感させられました。  両親の不仲のせいで愛されることなく育った孤独なヒーローが冷笑的な人間になってしまったのも、ヒロインが、家族のために金持ちの男性と結婚するために計算高く策略をめぐらせるのも理解できます。お互いに相手に惹かれながらも心を許そうとせず、腹を探り合うやりとりは緊張感いっぱいでドキドキさせられました。  相手が高潔な人ではないとわかって、そこに魅せられたり、自分の内に秘めた冷酷さを見破る人に惹かれたりするというのが興味深く、きれいごとだけではない恋愛を描いていて、この作者、なかなかやるなと思いました。とは言え、ロマンス小説らしい楽しさも満喫できる内容で、誰も愛したくないヒーローが、自分に言い訳しつつヒロインに夢中になって普通でない行動をとったりするのにニヤニヤさせられたし、彼女に冷たい態度をとってしまった後に嫌われたのではないかと不安に陥ったりするところなんかは、読んでいて可哀相になってくるほどでした。ヒロインが金持ちの男性を釣り上げるために、補正下着で小さい胸を大きく見せていたことをやましく思ってヒーローに打ち明けたところは笑えたし、そんな小さな胸でも魅力的に見えるほど彼女に首ったけになっているヒーローが微笑ましかったです。黄色いチューリップの花言葉に気持ちを託して彼女に贈るところはとてもロマンティックで素敵でした。  なかなかヒーローのことを信頼できず心をガードしているヒロインも、彼に対する欲望には素直なので、刺激的なセリフが多く、ラブシーンもHotですが、それでヒロインが蓮っ葉に見えることはなく却って清々しく感じました。素直で可愛い女性や、高潔な男性を魅力的に描くのは楽ですが、こういう一筋縄ではいかないタイプを、魅力的な人物に描くのは骨が折れると思います。でもこの作者はいつも一癖ある主人公のロマンスを、独特の視点で描いていてとても面白く、本国で高い評価を得ているというのも納得です。