L0VE DRUNK

ロマンス小説の感想

黒い瞳にかりそめの愛を誓って グレース・バローズ

黒い瞳にかりそめの愛を誓って (ラズベリーブックス) Darius (The Lonely Lords)

 

老齢の子爵から若い妻を身籠らせてほしいと頼まれるヒーロー。  ウィンダム公爵家のシリーズではなく"Lonely Lords"という新シリーズの1作目で、この作者らしからぬショッキングな内容でした。ヒーローは伯爵家の次男でありながら、貧乏でお金のために男娼まがいのことまでしているかなり気の毒な男性で、そんな彼に跡継ぎが必要な年老いた子爵が、若い妻であるヒロインを妊娠させてくれたら高額の報酬をはずむと持ちかけるのです。ヒロインの結婚は形式的なものだし、夫は体が弱っている老人だから、最終的な結末は予想がつくものの、愛する女性が自分の子供を産むというのに一緒にいられないというのは相当辛く、そんな状況で恋に落ちてしまった2人がとても切ないです。  ヒロインを妊娠させるのがヒーローの役目なわけだから艶めかしい場面が多く、ヒーローが優しく接しながら初心なヒロインを女性として開花させていくのが素敵です。一緒に過ごすうちに傷ついた彼の心に触れ、癒してあげたいと願うヒロインと、優しくて純情な彼女に惹かれていくヒーローの気持ちが細やかに描かれていました。  過酷な人生を歩んできたヒーローが、清らかなヒロインと出会って希望を見出す救済のロマンスで、こういう展開に弱い人という人も多いのではないかと思いますが、惜しむらくは、ヒーローの過去の背景がいまひとつはっきりしなくて彼の苦境がわかりづらいのよね。ヒーローの父親は酷い人らしいけど息子にどんな仕打ちをしたのかあやふやだし、男娼を始めたいきさつや、叩くのが好きな倒錯した女性たちとの関係もやや説明不足な印象を受けました。まあその辺りをあまり詳しく書いているとロマンスじゃなくてヒーローの人生記になってしまうかもしれませんが・・。  冒頭の作者の謝辞によると、不採用になった原稿が熱心な編集者の働きかけで陽の目を見たのが今作とのことですが、確かにボツにするにはもったいない面白い作品だと思います。